横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)1278号 判決 1978年10月26日
原告
酒井一夫
ほか二名
被告
小野幸雄
ほか一名
主文
一 被告両名は、各自、原告酒井一夫に対し金四六万二一四九円、原告井川信夫に対し金一三万四六一一円及び右各金員に対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告西村隆は、原告酒井一栄に対し金六万一三〇二円及びこれに対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告酒井一夫、同井川信夫と被告両名間においてはこれを六分し、その一を被告両名の各負担とし、その余を右原告らの各負担とし、原告酒井一栄と被告西村隆間においてはこれを二分し、その一を右被告の、その余を右原告の負担とする。
五 この判決は、原告らの勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告酒井一夫に対し金三五九万四二一五円、原告井川信夫に対し金一九万七〇九七円及び右各金員に対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告西村隆は、原告酒井一栄に対し金一〇万二一七〇円及びこれに対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
次の交通事故(以下、本件事故という)によつて、原告酒井一夫(以下、原告一夫という)、同井川信夫(以下、原告井川という)は各傷害を負い、原告酒井一栄(以下、原告一栄という)は車両損傷を蒙つた。
(一) 発生日時 昭和四八年九月二四日午後九時一五分頃
(二) 発生場所 横浜市南区太田町一丁目三八番地先路上
(三) 加害車両 普通乗用自動車(横浜五六せ七一一一、以下、被告車という)
運転者 被告西村隆(以下、被告西村という)
(四) 被害車両 自動二輪車(横浜せ七四〇七、以下、原告車という)
運転者 原告一夫
同乗者 原告信夫
(五) 態様 前記道路上を進行中右折をはかつた被告車と対向車線道路上を進行中の原告車が衝突した。
(六) 結果
(1) 原告一夫(受傷内容、治療経過)
左脛骨複雑骨折、頭部両肩右肘打撲、頸椎捻挫
(ア) 昭和四八年九月二四日から同年一〇月二五日まで野村外科病院に入院(三二日)
(イ) 昭和四八年一〇月二六日から昭和四九年一月一七日まで同病院に通院(実日数二〇日)
(ウ) 昭和四九年一月二四日から同年三月九日まで国立相模原病院に入院(四五日)
(エ) 昭和四九年三月一〇日から同年六月一七日まで同病院に通院(実日数九日)
(オ) 昭和四九年七月七日から同年同月一一日まで遠藤医院に通院(実日数五日)
(2) 原告井川(受傷内容、治療経過)
右前腕両下腿打撲擦過傷、頸椎鞭打損傷
(ア) 昭和四八年九月二四日から同年一〇月一六日まで野村外科病院に入院(二三日)
(イ) 昭和四八年九月一七日から昭和四九年一月一〇日まで同病院に通院(実日数一三日)
(3) 原告一栄
原告車の大破
2 責任原因
(一) 被告小野幸雄(以下、被告小野という)は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。
(二) 被告西村は、前記道路上において対向車の有無その動静を確認して右折する注意義務があるのにこれを怠たり、突然、右折したため、原告車に衝突したものであるから民法七〇九条の責任がある。
3 損害
(一) 原告一夫 金四一一万四二一五円
(1) 治療費 金五六万〇五五八円
(ア) 国立病院分 金五万四二八八円
(イ) 遠藤医院分 金六三〇〇円
(ウ) 野村外科病院分 金五〇万円
(2) 付添費内金 金六万一九四八円
(ア) 看護婦付添料 金五万七一二〇円
(イ) 看護婦紹介手数料 金五五六八円
(3) 雑費、交通費 金四万六六七九円
(ア) 雑費 金三万一二九九円
(a) 遠藤医院における治療のための宿泊費 金二万八九一二円
(b) ネマキ、マスク、目薬代 金二三八七円
(イ) 交通費 金一万四三八〇円
(a) 野村外科病院分 金一万二九四〇円
通院実日数一四日に往復バス料金三八〇円を乗じた金五三二〇円及び同六日のタクシー料金七六二〇円
(b) 国立病院分 金一四四〇円
通院実日数九日に往復バス料金一六〇円を乗じた金一四四〇円
(4) 慰藉料 金一四五万三〇〇〇円
(ア) 入院分 金三八万五〇〇〇円
(イ) 通院分 金六万八〇〇〇円
(ウ) 大学中途退学の止むなきに至つた分 金一〇〇万円
(5) 逸失利益 金一九九万二〇〇〇円
原告一夫は、本件事故当時、関東学院大学二年生に在学中であつたが、本件受傷のため事故当日から昭和五〇年三月末まで身体の動静が不自由であつて、勉学、労働ともに不能であつた。従つて、これを労働不能による損失として算定すべきである。
(61万3000円+71万5000円)×18/12
昭和48年賃金センサス第一巻第二表の同年の高卒男子18歳~19歳の全産業平均給与年額
(二) 原告一栄 金一〇万二一七〇円
原告車修理代金 金一〇万二一七〇円
(三) 原告井川 金六二万四六九七円
(1) 野村外科病院治療費 金四二万七六〇〇円
(2) 慰藉料 金一四万一〇〇〇円
(ア) 入院分 金一一万五〇〇〇円
(イ) 通院分 金二万六〇〇〇円
(3) 逸失利益 金五万六〇七九円
原告井川は、全日本海員生活協同組合に勤務する労働者であり、一日当り金二四三九円の賃金を得ていた。ところが、原告井川は、本件事故による受傷、入院治療のため右勤務先を二三日間欠勤し、その間に得べかりし給与金五万六〇七九円を喪失し、同額の損害を蒙つた。
4 損害の填補
(一) 原告一夫 金五二万円
原告一夫は、自賠責保険金五〇万円を受領し、他に被告西村から金二万円の弁済をうけた。
(二) 原告井川 金四二万七六〇〇円
原告井川は、自賠責保険金四二万七六〇〇円を受領した。
5 よつて、
(一) 原告一夫は、被告らに対し、各自、金三五九万四二一五円及びこれに対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 原告井川は、被告らに対し、各自、金一九万七〇九七円及びこれに対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(三) 原告一栄は、被告西村に対し、金一〇万二一七〇円及びこれに対する昭和四八年九月二四日より支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告小野
(一) 請求原因第1項(一)ないし(五)の事実は認める。同項(六)の事実は不知。
(二) 同第2項(一)の事実は否認。
(三) 同第3項の事実は不知。
(四) 同第4項(一)のうち、原告一夫が自賠責保険金五〇万円を受領した事実は認める。
2 被告西村
(一) 請求原因第1項(一)ないし(五)の事実は認める。同項(六)の事実は不知。
(二) 同第2項(二)の事実は否認。
(三) 同第3項の事実は不知。
(四) 同第4項(二)の事実は認める。
三 抗弁
1 被告小野
(一) 仮に、被告小野が被告車の運行供用者であるとしても、被告小野、被告西村は、被告車の運行に関して注意を怠つていない。本件事故は原告一夫の一方的過失に基づくものである。すなわち、
(1) 本件事故現場は、歩、車道の区別のある車道の有効幅員一四・五メートル、片側二車線のアスフアルト舗装道路上である。被告西村は、被告車を運転し、右道路を井土ケ谷方面から黄金町方面に向つて進行し、本件事故発生の直前、本件事故現場付近で右折して反対車線を横切り、反対車線側にある三菱オートガススタンドに入るため、右折の合図を点滅させながら、一旦、進行車線の内側車線内別紙見取図記載(一)の地点で停止した。そして、反対車線の車両の走行を妨害しないため、前方の安全を確めたところ、約八〇メートル前方に原告車を認めたが、被告車が右折して反対車線を横切るのに充分安全な距離であつたので、右(一)地点から発進し右折を開始して反対車線を横断しようとした。ところが横断中右スタンド前の歩道に歩行者を認めたので、反対車線の外側車線内で一旦、被告車を停止させたところ、反対車線を進行してきた原告車が、被告車の左後部に衝突した。
(2) 以上のとおり、被告西村は、道路交通法二五条二項の規定を遵守し注意義務を怠たらなかつた。
(3) 原告一夫は、前方を注視せず、被告車の発見が遅れ、かつ、時速五〇キロメートルをはるかに越える高速で進行した過失によつて被告車に衝突したものである。
(二) 被告車に構造上の欠陥及び機能上の障害はなかつた。
2 被告両名
(一) 本件事故発生について被告西村に過失があるとしても、前記のとおり、原告一夫にも前方注視義務違反、安全速度違反の過失があり、この過失が一因となつて本件事故が発生したのであるから、原告らの損害額につき右過失を相当程度斟酌し相殺すべきである。
(二) 本件事故は、被告西村と原告一夫の共同過失によつて発生したものであるから、本件事故による原告一栄、同井川の損害は、両者で負担すべきものである。
四 抗弁に対する認否
抗弁を総て争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因第1項(一)ないし(五)の事実は、全当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第五号証の一、二、原告酒井一夫本人尋問の結果によつてその成立を認めることのできる甲第七号証によれば請求原因第1項(六)の事実を認定することができる。
二 責任原因
1 被告小野の運行者責任
被告小野幸雄、同西村隆の各本人尋問の結果によると、被告車の所有者登録名義が被告小野である事実を認めることができる。被告らは、「被告車はもと平和交通タクシー株式会社(以下、平和交通という)の所有であつたが、昭和四八年六月末頃、当時平和交通の運転手であつた訴外金城始が平和交通から被告車を代金一八万円で譲受けた際、車庫証明をとる都合で、同じく平和交通の運転手であつた被告小野から名義の貸与を受けた。そして、金城は、約一週間後に、被告車を代金一八万円で友人の被告西村に譲渡したが、その際にも車庫証明の都合で被告車の所有名義を被告小野としていた。被告西村は、被告車を主として宇都宮市内で使用していた。被告車は、被告西村の所有であつて、被告小野は、被告車の単なる登録名義貸与者にすぎない。」旨供述するが、被告両名の各本人尋問の結果によれば、被告小野は、後日、事情があつて事実に相違する説明をしたと釈明したものの被告らの訴訟代理人に対し、被告小野が被告西村に対し、被告車を売却した旨の説明をしていた事実、被告西村も被害者や警察職員に対し、被告車の所有者が被告小野であつて、被告西村は、被告小野から被告車を借りて使用している旨説明した事実が認められ、又、被告西村隆本人尋問の結果中「被告車の売買代金一八万円の内金六万円を支払つて、被告車の引渡を受けた。残代金は未払のままである。」「金城は、とりあえず、被告車の所有名義をそのままにして乗つていてくれ、と言つていた。」との供述部分があるし、被告小野幸雄本人尋問の結果中には「金城は本件事故の約一年後、郷里の沖縄県に帰つた。金城には、代金一八万円を立替支払つたが、被告西村からこれを取立てるよう金城に依頼されている。」との供述部分があつて、被告車の所有名義人を被告小野としたのには、単に車庫証明の都合からばかりではなく、代金全額の支払を受けるまでの間、被告車の所有権移転を留保する必要があつたためとも考えられるし、金城と被告西村との間に被告車の売買があつたということについても多少複雑な事情も推測され、不審な点があり、結局、被告両名の各本人尋問の結果は措信できず、これらによつては、被告小野が主張するように被告車は被告西村の所有であり、被告小野は被告車の単なる所有者登録名義貸与者にすぎないとまでは認めることができない。他に、この点に関する的確な証拠はない。従つて、被告小野は、被告車を所有してこれを自己のため運行の用に供していたものであつて、被告西村は、被告小野から被告車を借りて使用していたものであると推認するほかないものといわねばならず、被告小野は、運行者としての責任を免れることはできないものといえる。
2 被告両名の責任
成立に争いのない乙第二、第三号証、原告酒井一夫(一部)、同井川信夫、被告西村隆(一部)各本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場は、歩、車道の区別のある車道の有効幅員一四・五メートル、片側二車線のアスフアルト舗装道路上である。前方右方左方とも見とおしがよく、事故発生時間は午後九時一五分頃であるが、街灯の照明により明るい場所である。被告西村は、被告車を運転し、右道路を井土ケ谷方面から黄金町方面に向つて進行し、本件事故発生の直前、本件事故現場付近で右折して反対車線を横切り反対車線側にある三菱オートガススタンドに入るため方向指示器を点滅して右折の合図をしながら、一旦、進行車線の内側車線内別紙見取図記載(一)の地点で停止した。そして、前方の安全を確認したところ、約八〇メートル前方に原告車を認めたが、被告車が右折して反対車線を横断するのに充分安全な距離と判断して、右(一)地点から発進し、右折を開始して反対車線を横断しようとした。ところが、反対車線を横断中右スタンド前の歩道に歩行者を認めたので、一旦、被告車を停止させた。そして、被告西村は、右歩行者の通過をまつて、被告車を発進させたが、その際には、反対車線を走行する車両の有無、状況等に関心を抱かず安全を確認しなかつた。原告一夫は、当時、原告井川を同乗させ、原告車を運転し、前記道路の外側車線を黄金町方面から井土ケ谷方面に向つて時速約五〇キロメートルで進行し、本件事故現場の約一六、七メートル手前で反対車線から右折して、原告車の進行車線を横切り前記スタンドに入ろうとする態勢で進行してくる被告車を認めたが、被告車が外側車線に入る手前で停止するものと判断し、減速することなく同一速度のまま進行し、被告車の約一〇メートル手前に接近して、急制動の措置をとり、左側にハンドルをきつたが、間に合わず、別紙見取図記載X点で被告車の左側面後方部に衝突した。以上のとおりである。乙第二、第三号証中右認定に反する各指示説明部分、原告井川信夫、被告西村隆各本人尋問の結果中右認定に反する各供述部分は措信し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によると被告西村は、進行車線から右折し、反対車線を横断し、道路に面した場所に入ろうとするのであるから反対車線の車両の正常な進行を妨げる惧れのあるときは横断してはならず、横断に際しては、あらかじめ、走行する車両の有無、状況に注意し、充分、安全を確認しなければならないことは勿論、横断中、歩行者などの安全のため一時停止した場合にも、発進するに際し、まつたく右と同一の注意をし、充分、安全を確認しなければならないことは詳言するまでもない。しかるに被告西村は、前記のとおり、被告車を運転し、反対車線を横断中一時停止した後、このような注意義務を怠たり、漫然、被告車を発進させ、原告車との衝突を招き、本件事故を発生せしめたのであるから、被告小野の免責の抗弁はその余の点につき判断するまでもなく、失当であり排斥を免れず、被告小野には、自賠法三条本文に基づく責任があり、又、被告西村には、民法七〇九条に基づく責任があるといえる。
三 損害
1 原告一夫 金一六三万六九一六円
(1) 治療費等 金五六万〇五八八円
成立に争いのない甲第六号証の一、二、第一〇号証、前掲甲第七号証、原告酒井一栄本人尋問の結果を総合すると、請求原因第3項(一)の(1)治療費金五六万〇五八八円の損害の発生を認めることができる。
(2) 付添費等 金六万一九四八円
成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三、第一二号証の一ないし三によれば、請求原因第3項(一)の(2)付添費金六万一九四八円の損害の発生を認めることができる。
(3) 雑費、交通費 金一万四三八〇円
前認定の原告一夫の通院実日数に照らし、請求原因第3項(一)の(3)の(イ)交通費金一万四三八〇円の損害の発生を認めるのを相当とする。ただし、雑費については本件事故と相当因果関係に立つ損害としてその発生を認めるに足りない。
(4) 慰藉料 金一〇〇万円
前認定の原告一夫の受傷内容、治療経過、自賠法施行令別表記載の後遺障害と認定されないものの、原告一夫の左足に多少の跛行を残していることその他諸般の事情を考慮すると、原告一夫に対する慰藉料額は金一〇〇万円を相当とする。
(5) 逸失利益
逸失利益については、これを認めるに足りない。
2 原告一栄 金一〇万二一七〇円
成立に争いのない甲第五号証の一、二によれば、請求原因第3項(二)原告車修理代金一〇万二一七〇円の損害の発生を認めることができる。
3 原告井川 金六二万四六七九円
(1) 治療費 金四二万七六〇〇円
原告井川本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因第3項(三)の(1)野村外科病院治療費金四二万七六〇〇円の損害の発生を認めることができる。
(2) 慰藉料 金一四万一〇〇〇円
前認定の原告井川の受傷内容、治療経過、その他諸般の事情を考慮すると、原告井川に対する慰藉料額は金一四万一〇〇〇円を相当とする。
(3) 逸失利益 金五万六〇七九円
成立に争いのない甲第四号証、原告井川信夫本人尋問の結果によれば、原告井川は、全日本海員生活共同組合に勤務するものであり、本件事故当時約金七万円の給与を得ていたが、本件事故による受傷、入院治療のため、右勤務先を二三日間欠勤し、その間に得べかりし給与として請求金額金五万六〇七九円を下まわらない所得を喪失し、同額の損害を蒙つた事実を認めることができる。
四 過失相殺
前認定の事故態様によると、前記のとおり原告一夫は、前方注視義務を尽さなかつたため、被告車が進行車線を横切り三菱オートガススタンドに入ろうとする態勢で進行する被告車を約一六、七メートル手前ではじめて発見したというばかりか、被告車が停止するものと判断し、減速することなく前記高速度のまま進行し危険回避のための安全運転義務を怠たり、本件事故は原告一夫のこれらの過失も一因となつて発生したものとしなければならないことが明らかであるから、原告一夫と被告西村の双方の過失の内容、程度を斟酌し、過失割合につき原告一夫が四割、被告西村が六割と定めて過失相殺をするのを相当とする。そして、原告酒井一栄本人尋問の結果によれば、原告一栄は、原告一夫の父で、原告一夫は、原告一栄からその所有の原告車の使用を許され運転していた事実が認められるので、原告一栄の損害額についても原告一夫の過失を原告一栄側の過失とみて右と同一割合により過失相殺するのが相当であり、又、原告井川信夫本人尋問の結果によれば、原告井川は、原告一夫の友人で本件事故当時、格別の用件とてなく、勿論、無償で原告一夫が運転する原告車の後部座席に同乗していたものであることが認められるので、原告車の好意同乗者として、原告一夫の過失を斟酌して損害額の算定につき一割を減額するのを相当とする。
以上の各割合により、それぞれ原告らの前記損害額につき過失相殺、減額をすると、原告一夫の損害額は金九八万二一四九円、原告一栄の損害額は金六万一三〇二円、原告井川の損害額は金五六万二二一一円となることが明らかである。
五 被告ら主張の共同過失の主張は、主張自体失当で原告らの請求につき何らの消長を及ぼすものではない。
六 損害の填補
原告一夫が自賠責保険から金五〇万円を受領し、被告西村から金二万円の弁済をうけたこと、原告井川が自賠責保険から金四二万七六〇〇円を受領したことは原告らが自陳するところである。
七 結論
そうすると、被告小野、同西村は、各自、原告一夫に対し金四六万二一四九円、原告井川に対し金一三万四六一一円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和四八年九月二四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、又、被告西村は原告一栄に対し金六万一三〇二円及びこれに対する右同日から支払ずみに至るまで右同割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告らの本訴請求を右の限度で理由あるものとして認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高瀬秀雄)